N house
東京都中野区に築 70 年ほどの RC 造の2階建⻑屋9棟で構成される「沼袋団地」の一住戶
を対象とした賃貸住宅の改修。
この⻑屋は1棟4住戶で構成され、それぞれが南側に前庭を持つ。ところが、その多くが暮らしに合わせて庭に部屋を増築し、改修を繰り返したことで、均質な⻑屋の立ち並ぶ団地の風景は失われ、窮屈に様々な住宅が立ち並ぶ風景となっている。一方で、団地の規約によって、RC 造の⻑屋本体部分の解体が不可能なため、南側の増築部分の背後や敷地境界が迫り手を加える余地の少ない北側には、どこか団地らしい、⻑屋らしい風景が垣間見える。
本改修では、増築によって埋没してしまった解体不可な⻑屋部分と、団地の一番南東に位置し人通りの多い道に面した、いわば団地と街の結節点に位置していることを意識しながら、窮屈に詰め込まれた薄暗い空間から明るく大らかな空間へと内外合わせて再構築することを試みた。
増築したことによって、日中でも薄暗い空間となってしまった⻑屋部分に光を届けるために、南側増築部にある2階の大開口に着目した。張り重ねられた仕上げを全て撤去し、南側増築部分全体を吹き抜けとし、かつての庭を彷彿させるような光溢れる伸びやかな空間を創出した。仕上げや間仕切り壁を最小限にまで削ぎ落とした伽藍堂の中にも、光の入り具合、温熱環境、見え隠れ、大きく広いテーブル等、住まい手がそれぞれに選択してそれぞれの暮らしを展開できるようなキッカケを散りばめた。
更に、この鉛直方向に伸びる空間の余白は、開口部の奥に望む隣家から連続する⻑屋の外壁が開口部に奥行き感を与え、東側増築部分を減築することで得た外構の余白と相まって、窮屈になった団地の風景にも大らかさを添える。
夜になると、2階の大開口から温かい灯りが漏れ、街を優しく照らし、更に開口部の奥に望む⻑屋の外壁が引き立ち、この団地の記憶を街に残す。
type. Housing
location. Tokyo
date. 2024.3
size. 105.80㎡
photo. Kenta Hasegawa